無相大師遺誡 概説

「遺誡(ゆいかい)」とは、僧が亡くなる時に、後人への訓戒として書き残した言葉のことです。

『無相大師遺誡(むそうだいしゆいかい)』は、妙心寺開山・関山慧玄(かんざんえげん)禅師が亡くなる直前に、弟子の授翁宗弼(じゅおうそうひつ)禅師に口伝したものです。授翁は末代の弟子たちへの開山遺誡とするため、侍者の雲山宗峩(うんざんそうが)禅師に、この口伝を清書させました。この清書のことを『妙法山正眼禅寺誌』などでは「出世の始末」と記載しています。その後清書は幾多の法孫の手元を渡り、今日「無相大師」の勅号を冠し、現代に流布されています。

内容の大部分は、大應・大燈両国師の略歴になっており、両祖の徳を称賛し、大恩を謝しています。

この遺誡で一番重要な部分は「汝等請う其の本を務めよ」の一文であります。「自己とは何か」「仏とは何か」を徹底して参学追求しなさい、ということです。

無相大師遺誡は、臨済宗妙心寺派の僧侶が常に胸間に秘在し、その意味を知らなくてはならないものでありますが、現代文に訳された書籍等を見つけることができませんでした。そこで、自己の浅学非才を顧みず、ここに意訳を試みました。意訳にあたっては、原文の単純な書き換えでは理解が難しい部分には、多少の加筆をしてあります。大変ありがたいことに、年長の和尚様方から間違いをご指摘頂いたりもいたし、最初の発表から時を経るごとに、原文と意訳の開きも狭まっていると思います。しかしながら未だ間違いがあれば、どうぞこれからも諸大徳より指摘・校正・叱正など頂ければ幸いです。

原文は『増補 妙心寺史』(川上孤山・著/荻須純道・補述)から引用させて頂きました。

■参考文献
『妙法山正眼禅寺誌』/正眼寺誌編纂委員会/正眼寺
『増補 妙心寺史』/川上 孤山 著/荻須 純道 補述/思文閣
『簡訳 臨済宗読誦聖典』/西村 惠信 監修/四季社

since 2005/3/17 - last modified 2013/8/30


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ジャンル : 学問・文化・芸術

無相大師遺誡 #1

妙心開山無相大師遺誡

宿昔吾大應老祖正元之間超風波大難地蚤入宋域遇着虚堂老禅于淨慈、眞參實證末後徑山盡其蘊奥是故得路頭再過之稱受兒孫日多之記單傳楊岐正脉吾於朝者老祖之功也、次先師大燈老人參得老祖于西京侍者京輦巨峯其随從之際、脇不到席者多年頗有古尊宿風、卒受老祖淵粋命長養者二十年、果彰大應遠大之高徳起佛祖已墜之綱宗殘眞風不地遺誡鞭策後昆者先師之功也、老僧爰受花園仙帝敕請創開此山先師嚼飯養嬰兒、後昆直饒有忘却老僧之日、忘却應燈二祖深恩不老僧兒孫、汝等請務其本、白雲感百丈之大功虎丘歎白雲之遺訓、先規如茲誤而莫摘葉尋枝好。



(題名)
『妙心開山無相大師遺誡』

(現代語解釈)
『大本山妙心寺開山・無相大師関山慧玄禅師が残された後人への訓戒』



(原文1)
宿昔吾が大應老祖正元の間、風波大難の地を超えて、蚤に宋域に入って虚堂老禅に淨慈に遇着して真参実証、末後径山にその蘊奥を尽くす。

(むかしわがだいおうろうそしょうげんのあいだ、ふうはだいなんのちをこえて、つとにそういきにいってきどうろうぜんにじんずにぐうじゃくしてしんさんじっしょう、まつごきんざんにそのうんのうをつくす。)



(意訳1)
その昔、先々代の師匠である大應国師・南浦紹明禅師は、正元元年(1259)に、荒れ狂う海を越え、険しい山中を歩き、大変な苦労を重ねて中国・宋へと渡った。
いくつかの寺院に参問した後、今の浙江省杭州にある淨慈寺に辿り着き、そこで虚堂智愚禅師と出会った。
大應国師は、虚堂智愚禅師のもとに留まって参禅工夫を実践され、虚堂智愚禅師が径山万寿寺に移られると、国師も虚堂智愚禅師に随従し、径山に修行の場を移し、そしてついに大悟徹底された。

since 2005/3/17 - last modified 2013/8/29



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無相大師遺誡 #2

(原文2)
是の故に路頭再過の称を得て、児孫日多の記を受け、楊岐の正脈を吾が朝に単伝する者は、老祖の功なり。

(このゆえにろとうさいかのしょうをえて、じそんにったのきをうけ、ようぎのしょうみゃくをわがちょうにたんでんするものは、ろうそのこうなり。)



(意訳2)
大悟された大應国師は、その2年後に虚堂智愚禅師に暇を告げ、帰国することとなった。帰国する際、虚堂智愚禅師からの手紙、いわゆる「児孫日多の記」を受け取った。それは『涅槃(宋)の道を極め、再びもと(日本)の道へ帰ってゆく』と人徳を称えられ、『わが弟子はこれから先、日ごと多くの高徳を輩出するであろう』という期待の言葉が書かれたものである。
こうして国師は、文永4年(1267)に帰国され、この臨済宗楊岐派の正法を、わが国に直伝された。まさに大應国師の功績は計り知れない。

since 2005/3/17 - last modified 2013/8/29



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