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僧堂の入門試験

会社に就職するために入社試験があるように、学生になるために入学試験があるように、臨済宗の僧侶になるために、専門道場(「僧堂」(そうどう)と言います)への入門試験があります。正確に言えば「僧侶」になるためではなく、「修行僧(「雲水(うんすい)」と言います)になるためと言った方がいいかもしれません。

早朝、僧堂のある寺の山門をくぐり、ひとり境内を歩き、僧堂の玄関に入ったら、玄関のあがりがまちに腰掛けて、上半身を斜めによじり、頭を敷居に置き、入門を請う掛け声を叫びます。
「タノミマショー!」
すると庫裏の中から
「ドーレー!」
と返答があります。
応対に出てきた雲水に、入門願書、誓約書を差し出し、入門を頼み込みます。しかし、
「当道場はただ今満員ですので、新しい雲水を抱える余裕がございません。どうぞお引き取りください」
と、体よく断られます。仕方なく入門願書一式を収め、元来た境内を帰っていきます。山門を出た後、さて改めて同じ道筋をたどり「タノミマショー!!」と再び声をかけます。今度は「ドーレ」の返答もなければ、応対の雲水も出てきません。入門が許されるまでは、このまま身体をねじ曲げて頭をたれる窮屈な姿勢でいなければなりません。手はしびれ、腰は痛みます。トイレと食事以外はこの体勢です。これを「庭詰(にわづめ)」と言います。

夕方、もう遅いからこのまま帰すわけにもいかないので、一晩泊めてあげましょう、と声がかかり、ようやくこの姿勢から開放されます。

翌朝、朝食をいただくと「ではどうぞお帰りを」と追い出されます。2日目の庭詰です。

3日目の朝、今度は追い出されません。次は「旦過詰(たんがづめ)」と言う第2次試験です。暗く狭い部屋に閉じ込められ、一日中坐禅をしなければなりません。坐禅をして考えます。
「自分はなぜここにいるのか?」
「いつまで修行が続くのか?」
「今なら、まだ逃げ出せるのではないか?」
どう考えても光明を見い出せず、絶望の涙が流れてきます。自分が選んだ道であるのに…。

旦過詰で日を送ること3日、僧堂の門をくぐって6日目の朝、坐禅堂に通されます。周りには雲水が坐禅をしています。禅堂の中に祀られている聖僧(しょうそう)様=文殊菩薩に三拝します。
「新到参堂ー!(しんとう、さんどう)」
と掛け声がかかり、周りで坐っていた雲水たちが、いっせいに頭を垂れます。

これが僧堂の入門試験です。こうしてようやく入門が許されます。これからは雲水として地獄の修行生活が始まります。その生活に耐えるためには、体力よりも精神力が必要です。庭詰と旦過詰は「なぜ自分は修行をするのか?」を問い、決心を固めるために必要な期間と言えます。

3月31日は年度の終わりです。4月1日から新しいスタートを切る方が多いでしょう。今日と明日を境に人生が一変するかもしれません。親元を離れて慣れない暮らしに苦労するかもしれません。飲めないお酒に付き合わされて健康を損ねるかもしれません。世の中の不条理に遭遇して悔し涙を流すかもしれません。

でも、それはあなたが選んだ道です。たとえそれが仕方なく選んだ道であったとしても、安易に答えを出すのは止めましょう。やたらに他人を恨むのも止めましょう。人生は苦しいこと8割、楽しいこと2割程度と考えましょう。私はそう考えてきました。苦しい修行時代、休憩時間に爽やかな風に身をゆだねて高く青い空を眺め、鳥のさえずりを聞いた時、ああ、こんな楽しい時間があるんだ、と思いました。

きっと明日は素晴らしい日になりますよ。

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テーマ : 仏教・佛教
ジャンル : 学問・文化・芸術

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非常に素晴らしい記事でした!

今回の記事から勇気と元気をもらいました。今の僕に本当にフィットする記事でしたので、何度も読み返しています。心から感謝いたします。

Re: 非常に素晴らしい記事でした!

マイケル様、いつもありがとうございます。「感謝」とか言われると恥ずかしいです。今年は、満開の桜が門出を祝福してくれています。
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